No.108

No.108　春高記録物語　熊谷太郎２

春高記録物語Ⅲ　熊谷太郎２

５、全国デビューはっきりと４００mスプリンターへの道が定着したのは、秋の名古屋国体。少年B４００mで見事３位表彰台に輝く。「優勝狙った高橋弘樹（小高工）が、オーバーペースで失速したためのタナボタ3位」と太郎選手は振り返るが、優れた集中力、勝負強さは特筆ものである。持ちタイムはよくても本戦で発揮できないのが普通だ。優勝は為末大 (皆実広島)でB１００mに続く２冠。もっとも彼は昨年の全中の覇者であり、中学記録も複数保持する天才の呼び名高いスプリンターである。従って勝って当然の声も高かった。実はこのレースの面々が、後の高校短距離界を震撼させる顔ぶれである事はまだ予想出来なかった。4位に終わったが高橋弘樹（小高工）は翌年のインターハイ、国体の覇者になる選手。これらの選手の戦いがこの後ヒートアップして行く。高１の記録は１００Ｍ１１秒１０、４００Ｍ４８秒８０６、ケガの巧妙順風満帆かと思われた翌年だが、春から軽い肉離れによって出遅れてしまう。徐々に仕上げては行ったものの、県4位、関東も4位で何とかインターハイ初出場を果たし、頑張って準決勝までコマを進める。優勝は昨年国体4位と敗れた高橋弘樹（小高工）選手が雪辱を果たし、２位も藤森　亮（浜松西）の「２年生」がワンツーを決めた。国体覇者の「天才」為末選手は肉離れで欠場しているが、回復すれば当然「優勝候補筆頭」なのは必定。この頃から来年のインターハイ４００mのさらなる激戦が予想された。秋の国体も高橋選手が４６秒台で制し、２年生にして「高校最強」に君臨した。高２の太郎選手の記録は２００Ｍ２１秒９０、４００Ｍ４８秒４２。やはり冬期にうなってもケガが癒えず、ハムストリングの肉離れのため、あまり走り込めなかった。そのため新宿の体育協会スポーツ診療所まで週１～２回通って練習する事になる。実はこれが幸いし、法政大の稲垣選手や苅部選手ら日本代表とトレーニングの場を共にする事ができた。国内トップの専門家にスポーツ科学の基本をゼロから叩き込まれ、高校生としては衝撃を受けたという。「競技意識の昂まり」を持ち始めたきっかけであると、太郎選手は語っている。ここでの3ヶ月がさらに大きな成長につながった。７、関東２冠！やはりあのトレーニング効果なのか、精神的熟達なのか好調を発揮。ある程度優秀な高校生の選手なら、弱点補強や身体全体の能力アップは著しい成長を呼び込むのだろう。順調な登り調子で関東を迎え、予選から大爆発。関東の決勝では４７秒３７の大会新記録、さらには１６００mRの優勝までも手中に収めた！かつて「栄華を誇った春高」を知る他県の監督方も、きっと驚いたに違いない。春高自慢ではあるが、母校は関東大会最多優勝校である。屈強な先輩方が大車輪の活躍をし、他のチームは必死に「打倒赤シャツ！」を謳ったほどであったのだから。約２０年前に４００m４００mH マイルリレー優勝を飾った奥谷先輩は、インターハイでも２種目入賞を果たしている。となれば、当然今回も「優勝候補」の期待が膨らむのは自然の流れ。記録的にも十分満足できるものである。現在ランキング4位。・・・しかしこの年だけはいつもと様子が違っていた・・・・８、甲府インターハイの衝撃甲府盆地は連日うだるような暑さが続いた。そんな中、いきなり超高校級の新記録が飛び出した。４００m４６秒２７は、やはり天才・為末　大がマークした。元来１００mのスピードが高いがために、脚の故障に苦しんだ。故障しやすい１００mを泣きながら断念しての４００m転向だった。すでに春先から日本Jrで大学生を破って、４６秒台に突入していた。前年の覇者高橋選手は脚の痙攣のため、県大会から漏れていたがそれでもレベルは高かった。いよいよ始まったインターハイ４００m決勝では、為末選手は昨年準優勝している藤森選手を徹底マークし、２００m通過を２２秒４まで押さえた。コーナーから直線に入ってスルスルッと上がって来て、ラスト６０mでロケットに再点火したのである。苦しそうに失速する周囲の選手をしり目に、見ていて明らかに違うラストの伸び。中学時代、混成競技の新記録までマークした天才は、まさに弾むように４００mを駆け抜けた。９、４７秒台でも７位高校史上４００m最強の年。この歴史的レースは４６秒台でなければ3位表彰台にすら登れない。過去の決勝レースに４６秒台3人は９３年にもあったが、今回は７位でも「４７秒台」という破格のレベル。これは今後も破られない記録かもしれない。準決勝で４８秒前半をマークするも、惜しくも落選した熊谷太郎選手は残念だ。「とんでもない年」に当たってしまったものである。不運。１０、天才覚醒・為末秋の国体で巻き返しを狙うも、周囲のレベルはさらにエスカレート。太郎選手は４８秒０台ながら、準決勝敗退を味わうとんでもない世界だった。せめて通年なら、下位入賞は間違いない記録である。ここでも為末は地元国体で盛り上がり、高校生としては世界レベルの４００m４５秒９４、４００mH４９秒０１をマーク！！天才・為末選手が、さらなる「覚醒」を見せた歴史的な日であった。この記録は、今後いかなる高校生をも跳ね返すであろう。現場でこれを見ていた日本記録保持者「世界のファイナリスト山崎一彦」さんも、スタンドで息をのんだ・・・「速すぎる・・・」。この年はこれまた空前の高校４００mランキングで、４６秒台が５人。１０数年前のまさに全日本ランクである。（ちなみに私が中学の時の日本記録は４６秒６４。４７秒を切ればもちろん日本代表である。）１９９６高校　400m(電) (高校記録46.37 渡辺高博) 1) 45.94 為末大 (皆実３広島)10.16 広島国体 2) 46.35 藤森亮 (浜松西３静岡)10.16 広島国体 3) 46.76 山村貴彦 (清風２大阪)10.16 広島国体 4) 46.86 高橋弘樹 (小高工３福島) 7.14 あづま 5) 46.91 佐藤秀文 (市船橋３千葉) 6.14 敷島 6) 47.01 尾原康信 (平田３島根) 8.02 小瀬 7) 47.25 山口隆史 (八女工３福岡)10.15 広島国体 8) 47.27 松本卓 (海星３長崎) 8.18 諌早 9) 47.37 熊谷太郎 (春日部３埼玉) 6.14 敷島 10) 47.42 奥迫政之 (皆実２広島) 6.09 三次筆　のもと歯科 2004/07 <<前の記事へ次の記事へ>>

No.108 春高記録物語 熊谷太郎２

No.108　春高記録物語　熊谷太郎２