Nomotoさんのお話107

No.107 春高記録物語　熊谷太郎1

春高記録物語 Ⅲ　熊谷太郎 1

日本代表への夢　熊谷太郎１、２０年ぶりの「快挙」１９９６年６月蒸し暑い日だった。患者さんで込み合い野戦病院のごとき忙しさの中、ある電話に衝撃が走った。「えっ！関東マイル優勝？４００mもですか！？」ありがたい事に新顧問の高野先輩が、関東の結果をわざわざ電話して下さったのであった。そのうれしい一報は、熊谷太郎君が４００mと１６００mRの２種目優勝を飾ったというもの。この２種目制覇は、丁度２０年前の奥谷先輩以来の快挙であった。奥谷先輩（先生）は、私が高校入学当初からお世話になった方であり、関東3冠インターハイ２種目入賞の「すごい先輩！」である。４００m春高記録はそれから１０年たって、塩川茂樹君によって４７秒６にまで書き換えられ当分更新は難しいかと思われた。しかし今回はそれをさらに更新し、４７秒３７にまでアップしたのであった。我々の時代は４７秒中盤でインターハイ優勝「当確」。安易に私は「うちの後輩がインターハイ優勝候補筆頭！？」とうれしさのあまり知人に電話したのを覚えてる。２、中学時代太郎君は小中学時代を「脚の速い野球少年」として過ごした。もともと静岡の出身であり、埼玉への転校は中学２年であった。陸上部活動はそこからである。3年の時１００mに出場し春日部市で２位となって県大会へ。しかし全天候トラックと、陸上王国埼玉の屈強な少年達に圧倒されガチガチに緊張して１２秒１に終わる。組みでビリ、全選手の中でもビリであったという。しかしそれは本来の能力ではなく、リラックスを覚えた夏の市の大会で２００m２２秒７、幅跳びで６m３０をマーク。続く通信陸上で６m７０まで更新し、全中の標準記録をクリアーするに至った。「全力で走って跳ぶだけ」の幅跳びは、全国大会では３本ファールに終わってしまい記録無しにとどまる。中学時代のベストは１００m１１秒２、２００m２２秒５、幅跳び６m７０cmと、まずまずの好記録をもって締めくくられた。３、春高陸上部としていよいよ春高の陸上部としてデビューを果たす。憧れのカール・ルイスのごとき短距離と幅跳びの両立を狙ったが、６m７３cmを跳ぶも県大会で姿を消す。この年は幹部に陸名英二、八木雄一郎らを配し短距離に優秀な活躍が見られた時代。いわゆる科学的トレーニングが主流になった時期でもあるが、キャプテン陸名選手は「素質のない我々が科学トレーニングに逃げるな！弱い者こそ走り込め」と一括したという。「基礎筋力を先につけよ、科学トレ＝楽な練習ではない」というキャプテンによる主旨は、後輩達に良い影響を与えた事になったろう。私は診療がない日を利用して、この年の県大会最終日の応援に行けた。短距離の陸名は早々に１００mで関東を決め（春高としては１００mは１５年振りくらいか？・・３２回小谷さん以来？）、マイルリレーに備えて２００mは棄権していたと思う。全国レベルの伊奈学園の井盛選手や鷲宮の小菅選手らの争いによって、男子２００m 県大会は熾烈を極めた。２１秒台でも６位入賞を逃すという、少し前のインターハイ決勝の様相を呈していたと記憶している。（結局、関東では小菅選手が優勝、インターハイでは井盛選手が3位に）最終種目のマイルリレーでも春高メンバーが好走。この種目の関東出場は１９８７年森岡、鳥海らの3分１７秒の春高新記録以来であると思う。とても興奮して応援した事を覚えている。そしてこのマイルリレーが熊谷太郎の分岐点になる。４、マイルアンカーデビュー 3年生の活躍で多数種目が関東を決めた翌日、竹村監督は熊谷選手を呼んでこういった。「マイルはお前がアンカーだからな。準備しておけよ！」・・この一言が太郎選手の競技歴を大きく動かす起点になった。これで完全に「カール・ルイス」路線は消え、４００mへと路線変更して行く。春高の１００mとマイルを見られる稀なチャンスに、私も宇都宮関東大会へ土曜日応援に行った。８７年北海道インターハイで４００mH６位入賞した鳥海や、一気に春高マイル記録を「７秒」もの更新を成し遂げた主将　森丘らもやって来てくれた。当日１００mがあるので、キャプテン陸名はマイルを走れない。そこでアンカーには、新人で延び盛りの太郎を配した作戦だった。たしかに中学時代２００m２２秒５で走れる走力を持ち合わせているし、入部して２ヶ月あまりの練習でも「幅跳びでなく２００m～４００m」の適正を見い出されたのであろう。陸名が順調にラウンドを進める中、北関東勢の１６００mRが始まった。予選とはいえ、さすがに県大会とは異なりトップはとれない。 3組２着プラス２が決勝ラウンドへ進む。５番手くらいの位置でアンカー太郎選手へバトンが渡った。上級生に見劣りしない大きな走りで追走。そして最後の直線で強豪校のアンカー達をかわし、「大器の片鱗」を見せつけた。惜しくも２着には入れなかったが、プラス3番めの記録でトータル9位という実績を残した。ラップも５０秒を切る好走だった。我々は「すごい１年生が入って来たなあ・・」と、その将来に期待がふくらんだ。このレースを太郎選手本人は「あれは火事場のクソ力。ゴールして２時間くらい動けなかった・・・」と振り返る。しかし竹村監督は大喜びで「ほら見ろっ！」と、自らの采配に満足気であったのを覚えている。筆　のもと歯科クリニック　　野本　順一(04/07/09) <<前の記事へ次の記事へ>>

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