No.110

No.110　天才マリオンジョーンズの９日間Ⅰ

天才マリオンジョーンズの９日間Ⅰ

１、最後の天才単に金メダルをとるとか、世界記録を出しただけでは「天才」とは呼ばれない。かつてカールルイスや、セルゲイブブカらがその称号を受けたのは、ある条件を満たしているためである。それは、鮮烈なデビューと同時に世界のトップになる「天賦の才」を備えている事。そして世界王者として圧倒的強さを誇り、頂点に君臨し続ける事。「華麗」である事。従って、ひたむきな努力で勝ち上がって来た選手はもちろん立派だが（例えばマイケルジョンソン、モーリスグリーンらは世界一だが、）天才とは呼び難い。もちろん「天才」は、努力精進も超一流である。そんな条件に現在あてはまるのは、マリオンジョーンズくらいであろうか・・？２２歳で鮮やかなデビューウイン以来、世界大会１００mは無敗。かつてのルイスやジョイナーの様に「手を大きく振りももを高く上げて走る」タイプではなく、９０年代らしい「地面をグッと蹴る」タイプ。ドーピング的な豪快な筋肉の付き方ではなく、いわば男性の様な自然な骨格としなやかな脚を備える。まだ洗練されておらず荒削りな感はあるものの、爆発的速さを誇る「天才肌」。２、不遇の少女時代マリオンの家庭は決して裕福とはいえなかった。幼くして父親が家を出て行った。そして母の再婚。様々な家庭問題は、彼女を強くしハングリー精神が培われていった。母親は「あの子は、人形なんか一度も欲しがらなかった。女友達もいらなかった。・・・」と語る。陸上のみならず、多くのスポーツでその才能を輝かせていたマリオンは、１６歳の時９２年バルセロナ五輪のリレー要員に選ばれた。高校２年生ながら全米選考会の１００mで、４位に入ったためである。しかし母親のトラーが、「１６歳でオリンピックは早すぎる」と反対したため辞退したいきさつを持つ。後談だがそのバルセロナでアメリカは女子４００mR優勝している。「私は早く独立したかった。大学（ノースカロライナ）に入ってから、その気持ちが１０倍にも強くなったわ。」と少女時代への決別を意識した。３、C・J・ハンターとの出逢い当時５歳だったマリオンは、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式をテレビで見ながら母と兄に言ったという。「私のために、赤いジュータンが敷かれるのは、いつだろう？」。学生時代バスケットの選手として活躍していたマリオンは、その卓越した運動能力のため注目の的だったろう。そしてついに「運命の人」CJハンターと出逢い、陸上に傾倒していく事になる。７歳年上のハンターはコーチとして「その図り知れない資質」を開花させると同時に、恋人から夫へとマリオンとの関係を深めていく。マリオンも不遇の幼少期のため、ハンターとの愛情を大切にし二人は常にペアを組んできた。ハンターは砲丸投げでアトランタ五輪７位、アテネ世界陸上3位。９８年に二人は結婚し、そして９９セビリア世界陸上でマリオンとアベック優勝を遂げている。夫婦での世界大会同時金メダルは、１９５２年ヘルシンキ五輪のザトペック夫婦のみ。（５０００ｍ１００００ｍマラソン、奥さんは槍投げ）４、五輪「５冠」への挑戦８歳の時にジョイナーを見て、黒板に「オリンピックチャンピオンになる」と書いた。意外だがマリオンは、シドニーが初五輪である。９６アトランタでは、選考会直前に左足の小指を骨折するアクシデントに涙を飲んだ。今回は前人未到の「五輪５冠」へチャレンジ意志をかためた。米国代表のカレン・デニス監督は「練習でも試合でも、マリオンを見ていると（その才能に）鳥肌が立つような感動を覚える。彼女ならきっと夢を実現する」と話す。米国陸連のクレイグ・マスダック会長は「マリオンなら、女性で初めて、ペレやモハメド・アリ、マイケル・ジョーダンと同じようなスポーツを超えた存在になりうる」とまで期待を膨らませる。そのためには、五輪タイトル数で力を発揮するしかないのである。かけもちが多かった昔は別にすると、ロス五輪のカールルイスが４冠、ソウル五輪でジョイナーが３冠+銀メダル１が最も優れた成績。マリオンの挑戦が始まった。筆　のもと歯科　2004/07 <<前の記事へ次の記事へ>>

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