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No.12 ドーピング



ドーピング

   たまには私もドクターらしく、ドーピングの話しをしてみたいと思います。 体外から、ホルモン剤や、興奮剤等を競技能力を高めるための目的で摂取る事を、ドー ピングといいます。筋肉量が増えると、必然的にパワーはアップし、酸素も多く取り 込めるため筋持久力も増します。従って全ての運動能力が底上げされます。主にそれ には男性ホルモン剤(テストステロン)や、副腎皮質ホルモン(有名なステロイド) が適しています。本来、ケガや、重病の時に治療薬として用いるもので、急速な回復 を呈す「魔法の薬」です。 副作用としては、 1、もともと身体の中で分泌できるものなので、外来から多く摂取しすぎると自分か ら分泌できなくなります。その結果、長期摂取した場合、身体本来の機能が著しく低 下し、筋力も低下します。車イスの生活を強いられる程に衰える選手も出ます。 2、人間は男性ホルモンと、女性ホルモンの両方を分泌しています。男女でその比率 が違うだけです。従って男性ホルモンを大量に投与した場合、自分で作り出せないた め、女性ホルモンが優位になって男は乳房の膨らみ、身体は丸みを帯びてきます。乳 がんの可能性すら出てきます。女は男性ホルモンが増え過ぎたため、ヒゲが濃くなっ たり、のど仏が出てきたり、声が低くなったりもします。極端な例をいうと、少女時 代から男性テストステロンを継続投与された、元東独の砲丸選手は、女の心まで失っ て「性転換」に至ってしまいました。中国女性水泳選手の異様な筋肉質な身体、ヒゲ と「男の声」も問題になりました。 パワーだけ? すぐ短距離や、投てき等パワー競技を想像しがちですが、中長距離界にも浸透してい ます。身体の中に酸素を多く運べれば、ラストまでスピードは落ちません。当然記録 は伸びます。その酸素を運搬するのは「赤血球」です。それが多い程、ランナーには 有利です。「赤血球」を多量に作り出せるホルモンが「エリスロポエチン=通称エポ」 です。 赤血球は自分で作るため、薬物エポの検出はしにくく、多くの選手が使用していたと 思われます。しかし化学の進歩で、これも摘発出来るようになりました。ツールドフ ランスの自転車選手が多用して、「使っていない選手はいない」とまで言われていた 薬です。 また赤血球を合法的に増やすのが、「高地トレーニング」環境です。低酸素で慣れ させれば、酸素の多い平地で効果を発揮するというものです。ケニヤ選手は生まれな がらに「高地トレーニング」を取り込まれているわけです。 マグワイヤ、ジョイナーは? 大リーグのM・マグワイヤ選手が野球連盟公認の薬物を「食用」として採っている事 は周知の事実です。しかしその健康食品は服用すると、体内であの「男性ホルモン剤 テストステロン」へと変化するのです。従ってあの2m近いヘラクレスの身体が生ま れたわけですが、これは大変危険です。ホルモンバランスを崩した時、生命に危機が 及ぶ可能性があります。しかし全米でこの「食品」が流行しているそうです。第2の マグワイヤを目指して・・これを許可している野球連盟に責任があると思います。 女子短距離界を、革命的に塗り替えたF・ジョイナーはどうでしょうか? あまりに速すぎた彼女の記録の更新は、当分不可能とされています。なぜなら、たっ た1年で100mを0、5秒近く更新したのです。まるで中学生の様に。今となって の詮索は不可能ですが、彼女の30歳台での心筋梗塞死は深い意味を含みます。筋肉 増強ドーピングの多くは「心筋梗塞」で死亡する可能性が高いのです。ホルモン剤の 摂取で膨れ上がった筋肉は、当然多くの血液を必要とします。しかし心臓は急激な需 要に耐えきれず、パンクしてしまうのです。例え心筋も共に肥大しても、今度は心臓 自身の血管が追い付かず、心筋細胞に血液が運ばれないまま壊死を起こします。これ が「心筋梗塞」です。 他にもたくさんの副作用があります。ツールドフランスの自転車選手は、やはり心臓 発作で亡くなりました。格闘家の舟木選手はその昔、ステロイド薬をやった経験を持 ちます。その結果、筋肉は増強されたものの、骨がパワーに付いて来れなくて「骨折」 してしまいました。さらに、皮膚に赤い発疹が出て体調を崩し薬物を中止しました。 (プロ格闘家なので規制はなかったが・・)横綱の貴乃花関も曙関と闘うため、ステ ロイドを協会から強いられた・・と噂になりました。確かに急激に身体も大きくなっ て、2mの曙と対等に闘える様になりました。しかし一時期、身体がピンク色に腫れ ていたのを強烈に思い出します。 もろ刃の剣 ドーピングに使用される薬剤は、本来医療薬品です。そして薬品とは「万能ではな く、どんなものでも身体には毒」と、薬理学の教授が言っていたのを思い出します。 私も体調を崩した時、ステロイドを内科医と相談して服用した経験があります。や はり発疹がでました。しかしお互いの認識あっての投薬だったので、トラブルはあり ません。やはり「こわいなあ」と痛感しました。そのかわり病状は劇的に回復し、肌 はつやつや、元気が出て10歳若返った様な感覚がありました。 最終目的は・・? もし、これがもう少しで世界のトップ選手で、地位と名誉、そして大金が手に入る なら・・と、悪魔の誘いに乗ってしまうのも理解できる気がします。そうです。やは り動機は「お金」なのです。世界的選手になれば、マラソン大会でも、トラックレー スでも、懸賞金やボーナスはうなぎ登りなのです。ある意味、「プロ」なわけですか ら、徹底していて筋が通っているような気もします・・・が・・ 現在の日本では、ステロイドや、他のホルモン剤は入手出来ません。私らの業種でな ければ「薬事法違反」になります。うちの歯科医院でもステロイドは化膿病症例等に 使う事も出来ますが、危険な薬なので仕入れてはいません。ただ、海外から、食品と して購入できるルートはたくさんある様です。その恐さを分かっているのでしょうか・ ・?飲み続ければベンジョンソンの様な身体になれると、安易に思っているなら大間 違いです。「死ぬ程の猛練習」なしには、筋肉は発達しません。「廃人」になる覚悟 も必要でしょう。 筆  のもと歯科 (2000年) <<前の記事へ 次の記事へ>>