No.161 赤き疾風完結5  きらめきの中


★きらめきの中  「高校最速」へ 運命の決勝がやってきた。 誰がどう緊張しても悩んでもタイムテーブルは淡々と進んできた。 ベンチには荒木春高同窓会長や後藤 均前OB会長ら先輩方も 応援に駆けつけてくださっていた。 野「ここ長居は後藤秀夫先輩(後藤 均 先輩の弟)が、 5種競技で優勝した場所です。春高には縁がありますよ」 後藤「そうか、弟が勝ってからもう40年にもなるのか・・・ 是非、勝ってほしいものだ・・・」 石上と私は100mゴール付近に陣取った。 ここまで選手達とは全く話しをていない。 監督と選手との間には数年の信頼関係があるので、 我々は余計な接触を避けようと思った。 1年生の高野君と挨拶をしたくらいだ。1年生の選手にも、 この大会は見ているだけで心に刻まれ大きな収穫になったはずだ。 「いつかは俺も!」とモチベーションを高めてほしい。 女子100mでは史上初の3連覇がかかった 高橋選手を応援する栄女子の応援団が前で頑張っている。 今年は女子もきわめてハイレベルであるから観衆も大注目。 高校生の男子には「モモコファン」も多いようで、 携帯カメラを用意する少年たちも多かった。 女子100mがスタート。 準決勝まで抑え気味だった高橋選手が、後半抜きん出た。 結果、高橋選手が3連覇を飾った! しかも高校記録にあと0・01秒の大会新記録! 11秒台が5人の歴史に残るレースとなった。 どよめく観衆。 ・ ・・しかし、私にはそんなことは全く目に映っていなかった。 ・ 数分後に迫った「高校最速王決定戦」を前に、 体が緊張して凍り付いているのだ。 手はこわばって冷や汗をかき、カメラが握りにくい。 いよいよスタジアムにBGMが流れ出した。 栄光の8人の登場だ。 ちなみに、NHKで「本日最高のタイムをマークしております、荒尾君・・・」 と言っていたが、あれは間違いである。 トップタイムは後藤だ。 ★ 赤き疾風 閃光の輝き 6月にテレビ放送のあった日本選手権で入賞しているので 荒尾選手に注目が集まっている。これは逆に後藤には楽な展開。 インターハイ前哨戦の全日本ジュニアはテレビ放送していないし、 前述したように追い風に恵まれた好記録をマークしていないためである。 それぞれ違う場所でマークされたランキングなど、どうでもよいのだ。 「埼玉 春日部高校 後藤くん」 「ごとおおーっつ」 恥も外聞もなく、私らは叫んだ。 恥ずかしいどころか、100mファイナルで、 現場で応援をできる機会なんてそうはあるものか。 生中継で埼玉の春日部高校陸上部800人のOBが、 春高関係者総勢数万人が魂をこめて見ている。 「よーい・・・バン!」 スタートは一発で決まり、後藤はカミソリのようなダッシュを決めた。 正直、横のレーンの荒尾選手は驚いたのではないだろうか。 30mをすぎると断然リード! 準決勝と変わらぬリラックスした滑らかな中間加速。 80m地点では1m近くリードだ! 「行けるっ!!」  確信した。 最後の10mで荒尾選手が追いかけたが、かわした! 「勝ったー!!」 ・・・・ 野「勝ったよね?」 石「ええっ勝ちましたっ」 野「絶対勝ったよな?」 石「ええ、絶対っ」 リアルタイムでオーロラビジョンが映るのでわずかに間が空いて、 後藤にインタビューマイクが向けられた。 「優勝できた一番の理由は何ですか?」 「えっと、いつも朝ごはんが食べられなかったんですけど、 それを直したことです」 いやあ・・・大物だ・・・あの場面であのコメント(OBは各地で大うけ・笑)。 赤き疾風はついに閃光となって日本を駆け抜けた。 この瞬間、選手と監督を筆頭に、春日部高校陸上部の 90年に及ぶ様々な人間の、様々な場面での努力が報われ、 今回の優勝に結びついたのだと感無量であった。 我々は意気揚々とベンチに向かった。 100mに勝つと、まるで総合優勝でもしたかのような錯覚を起こして 気分が高揚したのだ。 100m決勝  風:+0.1 順位 レーン No. 氏名 所属 記録 コメント  1 4 406 後藤 乃毅 (3)    ゴトウ ダイキ 春日部   10.41                              埼 玉 2 5 1387 荒尾 将吾 (3)    アラオ ショウゴ 小倉工   10.44                              福 岡   3 7 52 岩村 弘基 (3)    イワムラ ヒロキ 札幌南   10.55                              北海道 4 9 515 熊本 貴史 (3)    クマモト タカフミ 早稲田実  10.66                              東 京 5 3 236 安孫子 充裕 (3)   アビコ ミツヒロ 上山明新館 10.67                              山 形 6 2 1342 河野 壮志 (3)    カワノ ソウシ  三池工   10.72                              福 岡 7 6 568 吉野  寿 (3)    ヨシノ ヒサシ  法政二   10.74                              神奈川 8 8 1040 坂本 兼玲 (3)    サカモト トモアキ 郡山    10.84                              奈 良 風は無風。欲を言えば1m以上の風が追ってくれたら、 10秒35の県高校記録も十分届いたのではないかと惜しまれる。 ぜいたくな話だが。 つづく

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