No.167 赤き疾風 アナザーストーリー2 嵯峨根先輩の想い


★ 吉田こうすけの想い 8月3日の夜、私と石上、じん、こうすけで3次会を ホテルの部屋で語り合った。 こうすけは熊谷太郎らとともに、1600mRで18年ぶりの関東制覇を 飾った。しかしインターハイでは準決勝で惜敗。 3分16秒で走りながらも、全く及ばない力に愕然とした。 理科大へ進んでからは大学の中心として活躍。 現在でもクラブへは顔を出し、後輩を激励している。 同期の仲間も様々な形で、大学進学後も競技に研鑽した。 太郎(同大)はマイルで日本選手権も獲った。 やはり春高時代の様々な想い(楽しいことも辛いことも)は、 貴重な宝となっているそうだ。 とくに今年のメンバーへは、「大学で爆発させてほしい」と語る。 私からみても、そう思う。 今年のメンバーは、こうすけの代よりもさらに強いのだから。 ★ 嵯峨根さんの想い ・ ・以下、嵯峨根さんからのメッセージ。 2006年8月7日 何年たっても、あの時のことは忘れることができない。 県大会で優勝し、北関東大会でも優勝した4×100m。 時の全国ランキング6位。インターハイでの優勝を目指して、 余念なくバトン練習に励み、勝負の地、滋賀へ。 1979年8月2日、インターハイ第1日目。滋賀・皇子山陸上競技場。 予選を組トップで通過して臨んだ4×100m準決勝。 スタート前に雷鳴とすさまじい雨。競技場は、あっという間に 真っ黒な雲に覆われてしまい、競技は一時中断となった。 競技場 外にある雨天練習コースで、運命の瞬間に向け再び体を暖める。 体が良く動く。最高の体調の良さを感じていた。 良一、小谷、関根も好調のようだ。 関根からバトンを受けてそのまま逃げる、41秒台で決勝進出。 確信していた。 競技再開までどれだけの時間を要したかは、定かではない。 雨はあがり、いよいよスタートの時を迎えた。 準決勝3組目、春高は7レーン。いつもと同じ位置にダッシュマークをつける。 1走の良一がバトンを持った右手をかかげ2走の小谷へ「行くぞ」の合図。 そして、小谷から関根へ、関根から嵯峨根へと。 スタートの号砲。良一が前をつめる。小谷へバトン。 そのままの勢いで関根へ。 関根がインの2チームと競って、コーナーを抜けてくる。 ダッシュマークに集中する。が、インの走者が動き出すのが一瞬目に入った。 つられて体が動き出してしまう。 いつものタイミングではない。 止まれない。気持ちスピードを押さえ気味にしてパスをまつ。 リレーゾーンのラインが迫る。 「ハイッ」の掛け声で左手を大きく伸ばすが、バトンに触れることができず、 そのままゾーンをオバー。振り返ると、関根がコースに倒れこんでいる。 反射的に関根のもとへ向かった。 「大丈夫か」。「すいません」。・・・・・・・・。 その後の行動は断片的にしか覚えていない。 競技場の外をスパイクを手に提げ歩いている自分。 選手荷物置場で、タオルを顔にあてベンチに座っている自分。 どれだけの時間そうしていたか分からない。 三浦か立川に「ベンチに戻ろう」と声をかけられた。 重い足取りでベンチに戻ると、仲間、小原先生、竹村さんの姿が 目に飛び込んできた。「すまん」と声を絞り出すのがやっとだった。 膝に手をあて頭を下げたまま、動くことができなかった。 その日の深夜、まどろみからはっと目が覚めた私の耳に 、寝言が飛び込んできた。 「先輩、バトンです」。また涙が流れた。 大会2日目−4継決勝の日−。 空白の一日、記憶には何も残っていない。 そして、大会3日目。幅跳びで3位に入賞することになったのだが、 予選では、2回ファールの後の崖っぷちでの通過記録突破、 決勝でも追風2.0mでの一発が入賞記録になるなど、神風が吹いてくれた、 何か違う力が後押ししてくれたと考えざるを得ない。 「リレーの件がなければ、幅はなかった」と断言できる。 スポーツの世界で「たられば」は禁物。いくら考えても、どうにもならないこと。 「雨の中断がなかったなら」、「いつものタイミングで出ていたら」 、「決勝に残っていたら」、「もう一度、あのメンバーで走っていたら」・・・・・・・・・。 何回この思考が頭を支配したことか。 周りからどんな言葉をかけられようと癒されることはない。 5年、10年という年月の経過のみが、漸減させてくれる。 一方、いつの頃からか、苦しい時に、あえてあの時のことを 思い出すようにもなっていた。そして、思い出すことで度々救われた。 取り返しのつかないあのこと、あのつらさ、悔しさからしたら、 目の前のことなどなんてことない。 あの時のことは、今や心の支えにもなっている。 しかしながら、そんなことよりももっともっと大事なことがある。 陸上部の一員として、春高グラウンドで走り、跳び、投げていたというこの事実。 年代を越えて共有できるこの経験は、何ものにも代え難い財産そのものである。 後輩たちの活躍に心を躍らせ、結果に一喜一憂し、 何かあれば集まって酒を飲む。 心地良い時空に身をおくことのできるこの幸せを どんな言葉で表現できるだろうか。 結論は、Nothing。言葉で表現する必要はない。 高32回 OB会副会長 嵯峨根 

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